ファンアプリに韓国語学習を載せるとき、いちばん時間がかかったのはフレーズを書くことではなく「どれを何番目に出すか」を決めることだった。結果として7段階に分け、合計1,560個を入れた。この記事を書くにあたって元データを機械的に数え直したので、その実測値と、数えてはじめて見えたことを書く。
レベルごとの実数と、1,560の内訳
| レベル | 呼び名 | 件数 |
|---|---|---|
| 1 | 入門 | 228 |
| 2 | 初級1 | 219 |
| 3 | 初級2 | 225 |
| 4 | 中級1 | 224 |
| 5 | 中級2 | 222 |
| 6 | 上級1 | 218 |
| 7 | 上級2 | 224 |
| 合計 | — | 1,560 |
1レベルあたり218〜228件で、意図的にそろえてある。ただし「1,560種類の表現が入っている」と言うと不正確になる。重複を除いた実数は1,464件で、94件が2つ以上のレベルに重複して入っていた。重複の内訳は、レベル1と2にまたがるものが41件、2と3が25件、6と7が22件で、残りはごくわずかだ。
この重複は完全な事故ではない。隣り合うレベルの入口で同じ挨拶をもう一度出すのは復習として機能する。ただ「6と7に22件」の中身は事情が違って、そのほとんどがことわざと四字熟語だった。上級1と上級2を「難しさ」で分けたつもりが、実際にはどちらも同じ引き出しから取っていたということになる。ここは分け直しの余地がある。
難易度は「1フレーズの長さ」に素直に出る — ただし6で折れる
レベル分けの基準を後づけで検証するために、各レベルのハングル1件あたりの文字数を測った。ついでに「文になっておらず単語1語だけ」の項目も数えた。
| レベル | 平均文字数 | 最長 | 単語1語のみ |
|---|---|---|---|
| 1 | 3.6 | 11 | 178 / 228 |
| 2 | 7.7 | 13 | 29 / 219 |
| 3 | 9.7 | 17 | 11 / 225 |
| 4 | 18.3 | 25 | 0 / 224 |
| 5 | 22.0 | 29 | 0 / 222 |
| 6 | 7.8 | 22 | 64 / 218 |
| 7 | 12.3 | 25 | 25 / 224 |
レベル1から5までは3.6文字から22.0文字へ、きれいに6倍まで伸びる。ところがレベル6で7.8文字に落ちる。これは難易度が下がったのではなく、中身が「文」から「語彙と慣用句」に切り替わったからだ。レベル6の単語1語だけの項目は64件あり、そこには『대박』『헐』『짱』『꿀잼』『노잼』『심쿵』『멘붕』『갑분싸』が並んでいる。どれも3文字以下だが、初級者には辞書を引いても意味が取れない。
逆にレベル1の228件のうち178件、つまり78%は文ですらない。曜日、色、数字、家族の呼び方といった単語が並ぶ。ここは「韓国語で話す」段階ではなく「音と文字に慣れる」段階だという設計がそのまま数字に出ている。
語尾が切り替わる場所はひとつしかない
韓国語では丁寧さが語尾に出る。そこで各レベルの語尾を数えたところ、想像よりずっと極端な結果になった。
- レベル3は225件中225件、つまり100%が「〜요」で終わる。丁寧だがやわらかい해요体(ヘヨ体)一本。
- レベル4は224件中221件、レベル5は222件中209件が「〜요」。ここまではほぼ해요体で通している。
- レベル7で反転する。「〜요」はわずか6件で、代わりに「〜ㅂ니다/〜ㅂ니까」が49件。ここではじめて합니다体(ハムニダ体)が主役になる。
同じ「ありがとう」がレベルごとにどう変わるかを並べると、この設計の意図がはっきりする。
| レベル | フレーズ | 日本語 |
|---|---|---|
| 1 | 감사합니다 / 고마워요 | ありがとうございます/ありがとう |
| 4 | 도와주시면 정말 감사하겠습니다. | 手伝ってくださると本当に感謝します。 |
| 5 | 힘들 때 곁에 있어 줘서 정말 고마워요. | つらい時にそばにいてくれて本当にありがとう。 |
| 7 | 바쁘신 와중에 시간 내주셔서 감사합니다 | お忙しい中お時間をいただき感謝します |
レベル1では『감사합니다』と『고마워요』をただ横に並べているだけで、使い分けは説明していない。レベル4以降になると「〜してくださると」「〜してくれて」という理由の節がつき、感謝の対象が文の中に入ってくる。レベル7では相手の状況を先に立てる形になる。長くなっているのではなく、相手との距離の測り方が入ってきている。
挫折する場所は3→4。数字ではっきり出る
平均文字数が9.7から18.3へ、ほぼ倍になるのが3→4の境目だ。中身を見ると理由がわかる。レベル3までは『기분이 좋아요』(気分がいいです)『택시를 탔어요』(タクシーに乗りました)のように、主語と述語がひとつずつの短い文しかない。
レベル4に入った瞬間、『수영은 할 줄 아는데 잘하지는 못해요.』(泳ぐことはできますが上手ではありません)のように節が2つつながる。レベル4の見出しを並べると、〜니까/〜아서(理由)、〜는데(前置き・逆接)、〜면(条件)、〜ㄹ 수 있어요(可能)、〜ㄴ 적이 있어요(経験)が一気に出てくる。単語を足していく学習から、文をつなぐ学習へ切り替わる場所であり、ここで手が止まるのは設計上ほぼ避けられない。
もうひとつの崖は5→6だが、性質がまるで違う。レベル5までは文が長くなるだけで、知らない語は文脈で拾える。レベル6は『갑분싸』(急に場が冷める)のように、知らなければ何一つ推測できない語彙が中心になる。前者は根気の問題、後者は接触量の問題で、対処法も別になる。
推しの言葉を理解するには何レベルまで必要か
全部やる必要はない、というのがデータを並べたあとの結論だ。目的から逆算すると必要な範囲はかなり狭い。
- ライブのMCや挨拶、SNSの一言 … レベル1〜2で足りる。『화이팅』『대박』は挨拶と同じ頻度で出る。
- ライブ配信で本人がしゃべる内容 … レベル3〜4。理由と条件がつながる文が聞き取れるかどうかで、内容が追えるかが決まる。
- ファン同士の言葉 … レベル6。ここだけ先に見てもいい。
レベル6の「K-POPファン表現」セクションは14件だけで、『최애』(推し)『입덕』(沼落ち)『덕질』(推し活)『총공』(一斉ストリーミング・投票)『영통팬싸』(ビデオ通話ファンサイン会)『무대 미쳤다』(ステージが神がかってた)などが入っている。とくに『심장 폭행』は辞書を引くと「暴行」しか出てこないが、実際の意味は「かっこよすぎて心臓に悪い」だ。この14件は、レベル1から順に積み上げても最後まで出てこない。順番どおりに進む学習が推しの言葉に届かない理由がここにある。
逆にレベル7は、推しの言葉を理解するためには要らない。中身はことわざと四字熟語、そして格式体の書き言葉で、『고진감래』(苦あれば楽あり)『새옹지마』(人間万事塞翁が馬)『일석이조』(一石二鳥)『과유불급』(過ぎたるは及ばざるがごとし)が並ぶ。日本語話者にとってはむしろ易しい部類で、意味を知っているものに韓国語の音をつけるだけで済む。順番の一番上にあるが、日本語話者はここから入っても構わない、というのが数えてみて分かったことのひとつだった。
残っている課題
- 重複94件の整理。とくにレベル6と7で共有している22件のことわざは、どちらか一方に寄せるべきか、それとも「上級1で意味、上級2で使い方」と役割を分けるべきかを決めていない。
- 반말の段階が無い。丁寧さの階段が2段しかなく、ファンがいちばん多く聞く言葉づかいが体系の外にある。
- レベル6の落差。文の長さでは測れない段階なので、ここだけ別の指標(頻出度や出典)で並べ直したほうがいい。
1,560という数はそれ自体では何も意味しない。数え直して平均と語尾と重複を出してはじめて、どこが崖でどこが余分かが見えた。同じことをする人がいれば、フレーズを増やす前に一度数えることをすすめる。
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